『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
さすが、メリル・ストリープ。
この映画は彼女だからこそ見ごたえのある秀逸な作品になったと思わずにはいられません。

はずかしながら、私の英国政治に関する知識は薄く、女性首相が存在したという事実でさえ、この映画で初めて知ったのです。しかもサッチャーが首相を務めたのは、ベルリンの壁が崩壊された80年代から1990年までと大昔というわけではありません。彼女が非常に身近に感じられたのも納得です。

マーガレット・サッチャーがどのような方針で政治を行ったかは映画を見れば分かるのですが、ワタシネマでは女性の社会進出と仕事と育児の難しさについて語りたいと思います。

食料品店を営む父の手伝いをしていたマーガレットは、会社や家計のやりくりをすることの大切さや、正直に働き相当のお金をもらうという美徳を学んでいきます。父の教えは、後に、彼女の政治方針に大きく影響していきます。無事オックスフォードに合格し、政治への道へ興味を示すのですが、時は女性が社会進出してまもない1960年代。政治界の男は彼女を軽視し、彼女の話に真剣に耳を傾けることはありませんでした。

しかし、それにめげることなく、自分の信念を貫きとおすところがマーガレット・サッチャーの素晴らしいところです。同時期に自分をサポートしてくれる最愛のパートナーがみつかったのも彼女の飛躍を後押しするのですが。

夫となるデニスのプロポーズを受けた時のマーガレットはこう答えます。

I love you so much but, I will never be one of those women, Dennis. Who stays silent and pretty on the arm of her husband. Or remote and alone in the kitchen -doing the washing up, for that matter.
あなたのことを愛している。でも私は夫の腕に守られながら、謙虚に振舞い、着飾る女性にはならないわ。そして、台所で洗い物をする孤独な女性にだって。

One’s life must matter, Dennis. Beyond all the cooking and the cleaning and the children. One’s life must mean more than that. I cannot die washing up a teacup! I mean it, Dennis. Say you understand.
女性の人生だって重要視されるべきだわ。女性の人生は、料理や掃除、育児の他ににも意味があるのよ。ティーカップを洗っているだけの人生はごめんだわ。心の底からそう思っているの。分かるって言って。

デニスとの間には双子の娘と息子が生まれます。しかし、議員として当選し、政治を担う立場となった彼女は、「私の書いた絵を見て!」「ママ行かないで」という子ども達の声に後ろ髪を引かれながらも、政界へと向います。彼女が乗っている車をどこまでも追いかける子ども達の姿が痛々しい。どんなに泣き叫んでも、マーガレットの決心は覆されませんでした。

仕事と育児の両立には、夫や家族の他、様々な協力が必要不可欠です。夫であるデニス・サッチャーは自身もビジネスを営んでおり、地位もお金もあったようです。劇中では、妻の引き立て役に徹し、家族のことを最優先に考える優しい夫として描かれていました。

人生の大半を政治に費やしたマーガレット。彼女は子ども達に母親としての顔をどれくらい見せてあげられたのでしょうか。認知症になった母親を気遣う、娘・キャロルの態度は、母親に対するものではなく、首相に接するような、堅苦しく、ぎこちないもののように見えました。

子どもを持つ母親は、仕事か育児かという究極の選択を強いられる時が多々あります。子どもを保育所に預けながら仕事をすると、後ろめたさを感じる事があるかもしれません。けれど、母親が仕事をしている姿を見せるもの育児の一環だと私は思っています。仕事をしている時は、仕事に集中し、家に帰ってきたら子どもに愛情を注ぐ。そして自分への時間も忘れない。理想論であり、このバランスが難しいところです。

私の場合は、フリーランスライターとして、子どもを幼稚園に預け、自分にできる範囲で仕事をしているのですが、これは夫の収入があるからできる働き方です。私の収入なんて、せいぜい食費と娯楽費をカバーできるくらいですから。シングルマザーも、共働きをしなくてはならない家庭も、世の中には沢山います。結局、自分が置かれた環境で、自分に合った働き方をするのが一番なのでしょう。

サッチャーの場合は、寝ても冷めても政治が最優先となってしまったため、家族からの不満を買ってしまいました。しかし、彼女が置かれた状況からすると、それ以外に選択肢はなかったのでしょう。

1979年から90年まで、首相として最長の任務を終えた女性、マーガレット・サッチャー。彼女の鉄の仮面には、首相として、妻として、そして母としての様々な苦悩が隠されていたのかもしれません。

 

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